第34回 若田宇宙飛行士、ISSに長期滞在、実験・研究をスタート

第34回 若田宇宙飛行士、ISSに長期滞在、実験・研究をスタート kat 2009年3月22日(日曜日)

写真提供:NASA写真提供:NASA 若田光一宇宙飛行士が搭乗したスペースシャトル「ディスカバリー」は、日本時間3月18日に国際宇宙ステーション(ISS)にドッキング、若田さんらクルーがISSに入室した。宇宙空間という特別な環境を利用して、地球・天体の観測や、宇宙での実験・研究などを行うISSで、若田さんは日本人初となる長期滞在をスタートさせた。今後約3ヵ月間にわたり宇宙に滞在し、様々な実験を行う。約3ヵ月後のミッションで運ばれる「きぼう」日本実験棟船外実験プラットフォームと船外パレットをISSへ取り付け、「きぼう」を完成させた後、帰還する予定。

 日本の有人実験施設「きぼう」は、船内実験室と船外実験プラットフォームの二つの実験スペースからなる。船外実験プラットフォームは、宇宙空間を長期間利用する実験や天体観測・地球観測などに使われる予定で、船外環境をそのまま使用することができるISSの中でも独自の施設。ロボットアームは、この船外実験プラットフォーム/船外パレット上にある実験装置や搭載機器の交換作業、各種実験支援または保守・保全作業の支援を行う。

 ロボットアームは、主に「親アーム」、その先端に取り付けられる「子アーム」と、「ロボットアーム操作卓」から構成される。親アーム、子アームは共に六つの関節を持っていて、人間の腕と同じような動作が可能。本体の親アームは、船外実験装置など大型機器の交換に使用し、先端の子アームは、細かい作業を行うときに使用する。

 さて、日本の産業用ロボットは世界でも最高水準の技術を擁するが、宇宙空間で使われるロボットアームは生産ラインで使われるのとは条件が違う。宇宙空間は真空で、原子状酸素や放射線などに曝され、地上のメカのような普通の潤滑油・グリースが使えない。
たとえば軽量・省スペースで1/160という大きな減速比を実現する、ロボットアーム関節に使われる宇宙用ハーモニック・ドライブ減速機は、低蒸発でトルク損失を軽減する宇宙用真空グリース・オイルが適用されている。これは、合成炭化水素油MAC(Multiply Allkylated Cycropentane)をベースにしたものである。宇宙用ハーモニック・ドライブ減速機のベアリング保持器は、その潤滑剤を含浸するのに適しているフェノール樹脂で作られている。

 また、宇宙空間に直接曝される部位の軸受には宇宙用グリース・オイルが使用できないため、二硫化モリブデン(MoS2)焼成膜による固体潤滑が多く使われている。

 ところで、若田さんは日本時間17日のスペースシャトル「ディスカバリー」搭乗中に、自ら開発に携わったロボットアームを操作し、カメラ付きの検査用延長アームを駆使して、打ち上げ時の衝撃でシャトルの機体が傷ついていないか、点検作業を行っている。延長アームは、2003年打ち上げ時の断熱材損傷が原因で起きたスペースシャトル「コロンビア」の空中分解事故を受け開発されたもので、今回は帰還時に船体を高熱から守る耐熱材をアーム先端にあるカメラとレーザー装置で点検した。

 若田さんは以前、ロボットアームの操作はパイロットの操縦に似ているといった発言をしており今回も見事なアーム操作を実現したが、地上と同様のアームのモーション・コントロールを実現するには潤滑を含め機械要素技術側の課題も多いだろう。ミッションの安全信頼性を確保する上で、宇宙環境で機能・耐久性を実現するメカ技術のレベルアップが引き続き求められよう。