第25回 日本の衛星打ち上げビジネス本格化?ロケットを支えるベアリング技術

第25回 日本の衛星打ち上げビジネス本格化?ロケットを支えるベアリング技術 kat 2009年1月18日(日曜日)

 三菱重工が韓国航空宇宙研究院(KARI)からH-IIAロケットによるKOMPSAT-3の衛星打上げを受注、世界を相手にした衛星打ち上げビジネスが本格化する。成功率9割以上というH-IIA ロケット打ち上げの実績と信頼性の高さが評価され、今回の受注につながった。

 H-IIAロケットのエンジンでは、エンジン性能の一層の向上と大幅な軽量・長寿命化、信頼性の向上が要求されている。ロケットエンジン用ターボポンプの小型・軽量化では、液体水素(-253℃)や液体酸素(-183℃)の極低温推進剤を燃焼器に供給するターボポンプの高速化が必要になるほか、現在の多段式ロケットにおける上段用ロケットエンジンでも、その重さや性能が衛星などの打上げペイロードに大きく影響するため、回転数が100,000rpm級のターボポンプが有利になる。

 これに対し宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、液体水素の中など潤滑剤が使えない状態で、120,000rpmの回転を実現するロケットターボポンプ用「外輪片案内軸受」(写真)を開発、搭載している。この軸受は、高速性能や冷却性能に優れる外輪片案内方式を採用した、窒化ケイ素セラミック玉を用いたハイブリッドセラミック玉軸受を開発し、液体水素を使った性能試験で、高速性の指標となるDN値(軸受の内径(?)×毎分の回転数(rpm))が300万で、回転数が120,000rpmという世界最高速を達成している。ポイントは三つだ。

 第一に、軽量で極低温下でも耐摩耗性に優れる窒化ケイ素セラミック玉を使用することで、高速回転時に発生する遠心力荷重が鋼玉に比べ約60%減少でき、軸受の発熱や摩耗を抑えられる。窒化ケイ素セラミック玉は、鋼玉に比べPTFE潤滑膜が厚く付着するため高い荷重を支えることができる。

 第二に、特殊な表面処理により潤滑性を高めたガラス織布強化PTFE保持器を使用して、極低温でも玉や内外輪に付着させたPTFE潤滑膜で軸受を潤滑する

 第三に、外輪片案内方式の軸受を採用することで、軸受トルクが従来の外輪両案内軸受の約1/2になるため、超高速回転で問題となる摩擦発熱は、回転数120,000rpmで4kW程度と大幅に減少できる。特殊な平円ポケット形状を採用して、高速回転する、外側の案内面が片側しかない保持器の振動発生を抑えている。

 H-IIAロケットは設計の簡素化や製造作業・打ち上げ作業の効率化により、最高約190億円であった打ち上げ費用を最新モデルで90億円未満)と1/2以下に抑え、世界市場の相場である100億円未満を実現している。信頼性が高く、世界的にも優れたコストパフォーマンスを誇る技術で、打ち上げビジネスという、わが国では新しい産業が、いま本格化へ。宇宙へと広がるビジネス。ここで紹介したベアリングをはじめメカ技術の活躍する場が創出されつつある。