第18回『容疑者Xの献身』
第18回『容疑者Xの献身』以前、ベアリングメーカーの日本精工の展示ブースで、アーティスト・川瀬浩介氏との共同製作となる「ベアリンググロッケン」という装置を見た。四つのレーンから転がり落ちたベアリングボールが、4列の鉄琴の上を弾んで音楽を奏でる。これは、ベアリングボールが真球であることで可能になっている仕組みである。かつてジェイテクトが、ベアリングボールとパチンコの玉を同じようにバウンドさせバスケットのネットにシュートさせる実験を行っているが、ベアリングボールが同じ軌跡を描いて100発100中ゴールできたのに対し、パチンコ玉は弾む軌道がばらばらで、1回もシュートが入らなかった。ベアリングではボールの真球度が性能を左右する。ベアリングのボールが真球に近づくほど、ベアリングの摩擦が小さくなるのである。パチンコ玉を地球の大きさに拡大した場合、表面の凸部分は富士山の高さ(3,776m)くらいになるが、ベアリングボールの凸部分は鎌倉の大仏(13.35m)程度しか誤差が許されないという。
さて本作は、第134回直木賞に輝いたミステリー作家・東野圭吾の同名小説を映画化したもの。河原で惨殺死体が発見され、新人女性刑事・内海 薫(柴咲コウ)は捜査に乗り出し、いつものようにガリレオこと物理学者の湯川 学(福山雅治)に協力を求める。捜査を進めるうちに湯川は、被害者の元妻・花岡靖子(松雪泰子)の隣人で、湯川の大学時代の友人である天才数学者・石神哲哉(堤 真一)が犯行に絡んでいると推理する。湯川と石神の壮絶な頭脳戦が繰り広げられる。
本筋とは関係ないが、物語でクルーザー爆破事件があり、湯川が爆破の方法について実験する場面がある。パチンコ玉くらいの大きさのボールを「質量保存の法則」を利用して遠くまで飛ばした、という仮説だ。この原理は、ビリヤードでおなじみかもしれない。直列につながった二つの的球があったとして、その手前のボールにまっすぐ手球を当てると、遠いほう、二つ目のボールが動く。手球を撞く力が大きいほど、二つ目のボールが転がる威力は大きくなる。ここでは、CTスキャンを改造し強大な磁界を発生させ、手球を手前の的球に強力に引き寄せ、ぶつける。すると弾かれた最後尾のボールは、弾丸のように勢いよく飛び出て、実験の標的を粉々に吹っ飛ばした。
この運動エネルギーが本当に得られたとしても、手球にパチンコ玉を使ったのでは、距離が遠くなるほど狙いから逸れてしまうかもしれない。やはり、正確な軌跡を描くならベアリングボールを使うべきだろう。